あえて時代に逆行し、唯一無二のゲームを作る

制限の中で挑戦して独自性を確立

仲島瀬里奈氏は、ゲームの開発者だった父親に「昔のゲームでは表示できる色に制限があった」と聞き、「自分もその制限の中でどれだけ表現できるのか挑戦したい」と、『From_.』の開発に取り掛かった。そしてでき上がったのが、黒を基調に藍色でキャラクターやオブジェクトを描写した、特徴的なグラフィックである。

仲島氏
「グラフィックが簡素になっているぶん、キャラクターの顔はほとんど見えないので、その代わりに文章で心情を描写しました」

好きなものを詰め込んだ世界

『From_.』を構成する大きな特徴となっているもう1つの要素が、大正時代の日本のような場所を舞台とする世界観。その世界で郵便屋が舟に乗り、各地を旅するゲーム性は非常にユニーク。「いわゆる大正ロマンの雰囲気や、ベネツィアのゴンドラが好きなんですよ」と語る仲島氏は、自分の好きなものをとことん詰め込み、唯一無二の作品として完成させた。

なかでもとりわけ特徴的なのが、ゴンドラに乗りながら水面を移動して手紙を渡すと物語が進む点だろう。仲島氏によると、この演出には「手紙を届けることで、その世界の住人たちの関係がつながっていき、物語を紡ぎ出していく」という考えがあるという。また、こうした世界観には仲島氏からのテーマも込められているとも。

仲島氏
「『From_.』の世界観には“一度つながった絆は離れてしまっても心の奥底ではつながっている”というメッセージを込めています。人と人との絆をテーマに作ったので、ゲームの中の世界に浸りながら、このテーマを感じてほしいですね」

仲島氏が掲げたテーマは、早くも現実のものとなっている。椎葉氏は「サウンドの演奏を高校の頃の同級生であるピアニストに 7 年ぶりに声を掛けた」と教えてくれた。ゲームのキャラクターの関係のみならず、スタッフの関係もつないでいるのだ。実際のピアニストにお願いすることで、「演奏に人間ならではの感情が表れるので、プレイヤーの感情移入をさらに深めることができる」という狙いもあったという。

サウンドを担当した椎葉大翼氏は、『From_.』のグラフィックを一目見て魅了され、Google Play Indie Games Festival 2018 では「グラフィックのインパクトで、間違いなくトップ 20 には選ばれると思っていました」と語る。

あえて制限を設けて挑戦したのはグラフィックだけではなく、サウンドも同様。というのも、『From_.』のサウンドで使われている楽器はピアノのみ。椎葉氏は、「ピアノの曲を書くのは初めてだったので、ピアノだけでどうやって音色に濃淡をつけようかと苦労しました」と、制作当時を振り返る。

椎葉氏
「ゲームでは聞いたことがないような音楽を作りたかったんですよ。それでいて、物語の盛り上がりに合わせて、音楽に起伏を付けることを考えました」

色と音、これら 2 つの制限下での挑戦が相乗効果を生む。椎葉さんは「グラフィックからからインスピレーションを得て、作曲した曲もあります」と明かした。

椎葉氏
「主人公の郵便屋さんというキャラクターがゴンドラに乗っている移動しているときに『舟歌』という曲が流れるんですが、その曲はグラフィックを見てから作曲しました。グラフィックは黒と藍色という 2 色のみではあるのですが、可能な限り細かく描写されているのでイメージが掻き立てられるんです」

さらに広がっていく『From_.』の世界

当日の会場ではそんな『From_.』を、じっくりとプレイしていく来場者が多かった。こうしたイベントの場は、Indie Game 開発者にとっては、プレイヤーの声に触れる貴重な機会となる。仲島氏は「たくさんの方に遊んでいただけて嬉しいです。プレイしていただいているところを間近で見られることは少ないので、ありがたい限りですね」と、イベントの開催を大いに喜んでいた。

現在、国内で親しまれている『From_.』だが、さらに、英語版のローカライズ作業も進行中だという。

仲島氏
「これからこの作品をさらに海外にも広めて、世界中の人にゲームを楽しんでいただきたいです」

郵便屋と住人たちの織りなす人間味溢れるドラマが、世界中で楽しまれる日も近いのかもしれない。

From_.
ほぼすべてが水に囲まれた水の世界に住む人々に手紙を届ける郵便屋さんが、若い男女や恋人、家族たちをつなげていく横スクロールアドベンチャー。様々な人々の想いを届けていくことで、プレイヤーはやがて、ある事実を知る……。