スマートフォンで遊ぶビデオゲーム ”

“ 気づき ”がプレイヤーの快感となる

今から約 20 年前、『moon』というゲームがプレイステーションで発売された。この作品は、勇者が住民の家のタンスからアイテムを取るといった、当時のスタンダードな RPG の作風に対する“アンチ RPG ”のような作品で、他に例を見ない世界観が大きな話題を呼んだ。20 年経った今でも、テレビ番組で取り上げられたりと、半ば伝説の名作として語り継がれている。

そんな名作を生み出したゲームデザイナーの木村祥朗氏率いる、Onion Games の『Million Onion Hotel』(ミリオンオニオンホテル)が、Google Play Indie Games Festival 2018 のトップ 20 に選ばれた。

『Million Onion Hotel』は、モグラたたきとビンゴを組み合わせたようなパズルアクションゲーム。冒頭の簡単なチュートリアルを終えると、右も左もわからない状態でゲームがスタートすることになるのだが、あえてこのような作りにしているのだという。

木村氏
「ビデオゲームには、わからないところに気づいたり、発見する喜びがあります。それを強く感じてほしいなと。階段を上がっていくように、プレイヤーの腕も自然と上達するようなゲームデザインにしています」

プレイヤーが上達するためのヒントは、ゲーム内の至るところに隠されている。ゲーム中に特定の条件を満たすとカードが手に入るのだが、このカードの中にちょっとしたお役立ち情報が書かれていることも。「画面に触れているときに気づくように、予兆のエフェクトが入っていたりしています」と木村氏は教えてくれた。

木村氏
「僕は、なんでもわかりやすく、なんでもライトユーザー向けにじゃなくてもいいのかと思います。それで本作は、スマートフォンを使ったビデオゲームとして作りました。例えば、ステージの途中で出てくるボスは、プレイヤーに “ 気づき ” が起こらないと倒せません。結構、硬派なゲームなんです」

プレイヤーの想像を湧き立てる仕組みや工夫

スコアが高くなると、独創的なストーリーが展開するのも『Million Onion Hotel』の魅力の 1 つ。プレイヤーの想像を湧き立てる独特の世界観は、“ 幸せってなんだろう ” という “ 種 ” から生まれたという。

木村氏
「幸せには、地道に努力したときの喜びと、漫画とかテレビとかを見て脳に走る瞬間的な快感の2種類があると思うんです。でもこの2つは、まったく違う幸せだなって。それを物語に落とし込むときに、戦争をしている国で、マッドサイエンティストが幸せのスープを配っていたら、どうなるんだろうなという思いから、この物語が生まれました」

ゲーム中では、「あえて説明をせずに、ヒントを与えて想像してもらうことを意識して作っています」と語る木村氏。『Million Onion Hotel』のジャンルをアクションパズル・ポエムとしているのは、短絡的に言葉なしで伝えるところをポエムとしているからとも。

そういった物語を、さらに盛り上げてくれるのが、プレイ中に流れる音楽や効果音である。この音楽を担当するのは、『moon』の音楽も手掛けた谷口博史氏。

木村氏
「谷口さんは音楽を作る前に、どんな音楽がいいかとか、効果音はこういう方向性のほうがいいとか、よくしゃべるんですよ。今回も、谷口さんと話し合って、ただ音楽を流す以外に、効果音は音楽とシンクロするような音が選ばれていたりと、仕組みで工夫しているところがたくさんあります。僕は、そんな音を作ってくれる谷口さんが大好きなんです(笑)」

『Million Onion Hotel』の音楽は、プレイしたユーザーにも好評で、発売されたサウンドトラックはすでに完売状態。CD の追加販売の予定はないとのことだが、ダウンロード版の販売について尋ねたところ、「作るかもしれません。いや、作りましょう!」と快く答えてくれた。

いずれは RPG を作りたいという思い

作品に強いこだわりを持つ木村氏。次の展望について尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

木村氏
「僕だって『moon』のような RPG を作りたいと思っています。でも今は、お金も時間もない。僕の考えるのは、小さいゲームを積み重ねて、徐々に売り上げを上げていき、自分たちがゲームを作るのがもっとうまくなっていって、ヒット作を生み出す。そうすれば、RPGを作れるようになるかもしれない。それを狙うために、地道にやっています」

木村氏率いる Onion Games は、次のタイトルを開発中だ。その名も『BLACK BIRD』。ジャンルは循環型スクロールシューティングで、木村氏いわく、「これまでの作品は、どこかかわいかったり、明るかったりしたイメージがあったと思いますけど、次回作は “ ダーク ” な作品」になるそう。こちらは、パソコン版とNintendo Switch 版でリリース予定だ。

木村氏
「僕は作るゲームのジャンルを選ばない。どれも作りたいと思っています。ゲーム作り自体は、12歳の頃からやっていて、作ったことがないジャンルはないんです。もちろん、仕事として、チームで作るのとはワケが違いますけど。人生は短いものなので、全ジャンルのゲームを作るぞという意気込みで、ゲームを作っていきたいですね」

ゲーム制作者として活躍を続ける木村氏。彼の挑戦は、まだ始まったばかりなのかもしれない。

Million Onion Hotel
モグラたたきとビンゴを融合させたパズルアクションゲーム。ステージを進めていくと、不気味なホテルが舞台の摩訶不思議な物語が展開。ステージの途中に突然ボスが出現したりと、一風変わった演出も特徴だ。