スマートフォン時代の新しいノベルゲームを世に

社内サークルとして開発をスタート

エンタブリッジの岩切進悟氏は、大のノベルゲームファン。パソコンで大ヒットした同ジャンルのタイトルがスマートフォンに移植される中、岩切氏は「スマホのインターフェイスに特化した、ライトなノベルゲームを作れないか」と思案し始める。そんな岩切氏の想いに賛同したのは、同僚の坂井成通氏だった。web制作を手がける同社で、岩切氏と坂井氏は社内サークルのような形で、ノベルゲームの制作をスタートさせる。

坂井氏
「岩切から話を聞いてすぐに、『よし、やろう!』と思い立って、一時間後にはプロトタイプを完成させました」

プログラムを担当した坂井氏と、シナリオを書ける同僚に恵まれた岩切氏は、2017年の秋にゲーム開発をスタートさせ、わずか半年たらずで3本のゲームをリリース。ホラーが好きだというシナリオライターの意向を尊重し、“10分で遊べるホラーサウンドノベル”というキャッチフレーズでリリースした『俺の彼女 殺人鬼に追われています』と『くりぬきさんのウワサ』は、これまであまりノベルゲームに触れてこなかったライトユーザーの間で話題を呼ぶ。

今回のGoogle Play Indie Games Festival 2018 でトップ 20 に選出された『怪異掲示板と7つのウワサ』は満を持してリリースした長編サウンドノベルだ。。受賞を受けて岩切氏は、「トップ20に選ばれたことで、『怪異掲示板と7つのウワサ』をより多くの方に知っていただけて嬉しく思います。この作品をきっかけに、これまでノベルゲームに触れてこなかった若いユーザーが、ノベルゲームの魅力を知っていただけたら幸いです」と笑顔を見せた。

SNS世代に受け入れてもらうために

ゲーム開発を始めるにあたって、岩切氏と坂井氏が目標としたのは、より気軽にプレイでき、ちょっとした空き時間でも楽しめるノベルゲーム。

岩切氏
「ノベルゲームは進化の過程で複雑になっていき、ライトユーザーにとって敷居が高いものになってしまったように思います」

膨大なシナリオと多岐にわたるルート分岐、何週もゲームをプレイしないとたどり着けないトゥルーエンドなど、ノベルゲームファンにとっては嬉しい仕様も、ライトユーザーにとっては高いハードルに。また、ノベルゲームでは当たり前となっている主人公の一人称視点による地の文も、「ライトユーザーのプレイを妨げる要因になっているのではないか」と、岩切氏は考えた。

こうして生み出されたのが、キャラクター同士がチャットをしているような画面で展開される、スマートフォンならではの新しいノベルゲームのスタイルだった。通話アプリのように画面の左右からセリフが次々と表示されて行くこのスタイルは、まさにスマートフォン時代の新しいノベルゲームとして、若いユーザーに支持されていく。

岩切氏
「ふだん本を読まない層も、SNSや通話アプリでの会話には慣れています。このスタイルなら、すんなり受け入れてもらえる確信がありました」

空き時間に気軽に遊べるノベルゲームを

だが、『怪異掲示板と7つのウワサ』の制作にあたって、坂井氏はこれまで以上のボリュームとマルチエンディングによるルート分岐の検証に苦戦したとも。

坂井氏
「過去の2作品はプレイ時間が約10分でしたが、本作は1章が10分から20分程度の7章構成で、駆け足でプレイしてもエンディングまで2時間はかかります。正直、何度もプレイして検証するのは大変でした(苦笑)」

坂井氏が語るように、過去の2作品と比べて10倍近いボリュームを誇る本作だが、ゲーム開発を始めた当初の目標は忘れていないどころか、この作品に結実していると岩切氏は胸を張る。

岩切氏
「満を持しての長編ですが、ライトユーザーにも遊んでもらえるように、複雑なルート分岐は採用していません。エンディングまでのルートを一本道にし、それ以外は全てバッドエンドにしました。例えバッドエンドに進んでも、すぐ元のルートに復帰できるように設計することで、遊び易い環境を提供できたと自負しています」

というのも、本作ではバッドエンドになってしまっても、ちょっとした広告を見るだけで、バッドエンドに突入する前の状態から再度プレイできる。この仕様により、セーブした場所からやり直す手間を解消。さらに長編でありながら、1章を10分から20分程度のボリュームにし、オートセーブを実装したことで、空いた時間に少しずつプレイできるようになっている。

岩切氏
「ストーリーもシンプルかつ王道なものですし、章仕立てにしたことで途中からプレイを再開しても、すんなりプレイしてもらえると思います」

本作で新たなノベルゲームの形を提示した岩切氏と坂井氏。今後の展望について岩切氏は、「次は6月をめどに、現代SF作品をリリースします。僕の目標はより多くの方にノベルゲームで遊んでもらうことなので、今後もどうしたらノベルゲームの魅力を伝えていけるか、試行錯誤していきます」と力強く語る。

スマートフォン時代の新しいノベルゲームを世に送り出した2人は、ノベルゲームの魅力を伝えるべく、今後も邁進し続ける。

怪異掲示板と7つのウワサ
とある高校の新聞部を舞台とした長編ホラーノベルゲーム。描き込まれた噂が現実になってしまう“怪異掲示板”の謎に新聞部の部員たちが迫る! 掲示板に書き込まれる“7つの怖い話”の真相は……!?